その手首に絡まったロザリオを、慈しむように指先で撫でる。 これで最後だと思えば、この感触もそれなりに悪くはない。 戸惑いとも焦燥ともつかぬ感情で瞳を揺らして、それでも志摩子は切っ掛けを探して言い淀んでいた。 ラストノート 式の日の朝早く、志摩子を連れ出した裏庭はまだ僅かに朝露の湿った匂いがした。 「どうしたの?」 私の数歩後ろで止まった足に気付いて振り返り、初めて志摩子の顔が泣きそうに歪んでいることに気付く。 その表情をもっとよく見たくて、片手で肩を掴むとそのまま強引に引き寄せた。 「何で泣くの?」 「…─解りません」 そう、と呟くと、はい、という律儀な答え。 こんな時まで志摩子は志摩子だと、可笑しくなった。 豊かに流れる髪を撫でて、意地悪な問い掛けをした償いの代わりに隠すように抱き締める。 小さな嗚咽が零れて、私の制服に黒い染みになって吸い込まれていく。 「行かないで、とか言ってみてくれない?」 「私が引き止めても、お姉さまは卒業なさるのでしょう」 「…うん、するけど。でもその前に志摩子の言葉が聞きたくて」 唐突に私の背中に縋り付いた志摩子が、お姉さまいなくならないでと絞り出すように囁いた。 ただ頷いて、抱き締めることしか出来ないのに、それでも不思議なくらい満たされていく。 ああこれで思い残すことはない、という確信だったのかもしれない。 志摩子の手首を持ち上げて、「私」が染み込んだ細い鎖の上にそっと唇を押し当てる。 それから、ゆっくりと離した。 「愛しているよ、志摩子。心から」 「…はい、お姉さま」 「もう行きな」 愛情に帰結しない愛しさを、優しさに変えることが出来るのだと教えてくれたのはこの子だった。 どこまでも眩しい背中が、もう振り返ることなく駆けていく。 予鈴のチャイムが鳴り響いているのを聞きながら、 その姿が校舎の中に吸い込まれるまで、目を逸らすことが出来なかった。 聖様に「愛してる」って言わせてみたかったんです。 i/c |